「葉月様、これはどうも、娘がお世話になりました。菜月、葉月様は、お店のご贔屓さんなんだよ。舞踊界トップのプリンス葉月一弥…」菜月は思い出した。稽古場で若い女の子たちが話題にしてた…。二枚目で色男。「お父様、今日のお礼に、私から反物をプレゼントしてもいいですか?」菜月は、お父様にお願いをした。「どうか菜月の言うように反物を選んで下さい。」「神無月さん…」一弥は、菜月の熱意に負け、断り切れなくなり龍の柄の小紋を選んだ。そして雑談を交わしながら、夜の部の公演に、お父様と菜月は、一弥から招待を受けることになった。一弥は、依頼していた着流しの仕立が出来上がっていた着物を持ち帰り、お父様、菜月に挨拶をし頭を下げ、浅草に向かった。「なんて礼儀正しい方なんだろう。威張ったり、天狗にもなったりしないで…」菜月は、一目惚れしてしまった。でも妻子がいる事が悲しかった。今日は、店を早く閉め、一弥さんの厚意で浅草に舞台を観に行く事にした。お父様も着流しに着替え、支度をする。先程頂いた名刺の連絡先に電話を入れ、幸い空いていた指定座席に予約をした。菜月は、一弥さんに会えると思うと胸が熱くなった。