菜月は、時間の許す限り、一弥さんの「追っかけ」になってしまった。行く先々で、取り巻きから、陰口を叩かれたり、菜月の事について、一弥さんに詰め寄り、根掘り葉掘りと聞き出そうとしている姿は、まるで「般若の面」見苦しくて見てられない。それでも一弥さんは、笑顔を絶やさず対応する優しさに心を打たれた。そして菜月は、思った。「何かの縁で知り合えたのだから、一弥さんを大切にしょう…」と心に決め、時折り差し入れをしたり、御祝儀をしたり…。そして絶対に見返りは、求めない。それから何年経ったのだろう…。菜月は、お得意様のお客様を連れて一弥さんの公演を観に行った。「お疲れ様でした。」「いつもありがとうございます。」普段と変わらない、お別れのあいさつ。お得意様のひとりが、記念写真を取りたいと言う事になり、一弥さんは、気前よく了承してくれた。すると一弥さんは、誰にも分からないように、菜月の手をそっととり「ギュッ!」と握りしめ、菜月は、「ドッキ!」とした。「さすが一弥さん!営業が上手ね!」と考えながら、一通の手紙をそっと渡された。