前に来た時、2つの遺影は無かったはず。
女の人は、俺に似ている。
多分、この人たちが、俺の…。
「佳英(かえ)さんが、お前のお母さんだよ」
祖父が、女の人の遺影を見つめた。
「父親は…」
俺が、男の人の遺影を見上げると、祖父は首を横に振った。
「あれは、皐月(さつき)は、虎太郎の兄貴で佳英さんの旦那だが、彗の父親ではない。佳英さんがウチに来たとき、既に佳英さんは妊娠してたんだよ」
祖父は、昔話をしはじめた。
13年前―。夏。
旅館の前に、妊婦が倒れてた。
それを助けたのが、旅館の長男、皐月だった。
妊娠が分かったとたん、違う女に逃げた彼を忘れたくて、傷心旅行に来たのだが、炎天下で気分が悪くなったと笑う、彼女に皐月が一目惚れ。
両親も反対したが、佳英の器量の良さに、最後は結婚を許した。
その年の暮れ、佳英は男の子を出産した。
年が明けて、正月がすんだころ、虎太郎が兄夫婦に新婚旅行を計画した。
「彗。ママ達ハワイに行くのよ。イイコで居ててね。お土産は、飛行機の中で考えるわ」
佳英の最後の言葉。
飛行機が、海に墜落して皐月も佳英も、星になった。
「虎太郎は、ずっと自分を責めてる」