行ってくるねと、いつものように彼女は玄関のドアを開け、出て行った。甘い香りがしばらく残った。
たまたま会社が休みだった僕は彼女のいないこの空間を幸運に思った。
しばらくして玄関のドアが開く。
「ユウくん…?お邪魔していいの?」
遠慮がちに入ってきたのは僕の「彼女」だ。
「妹ならさっき出てったよ。」
「そう。なんか…ごめんね、せっかくお休みなのに。」
「何言ってんだよ、せっかく休みなんだからこうして会えてるんじゃんか。」
「うん、でもほら、妹さんとも会うの久しぶりだったんでしょ?」
妹は、芸能人だった。
実際、プロフィールには兄妹がいると公表してはいるが、滅多に会ってはいない。
小さい頃から歌手だのアイドルだのの類に憧れ、目指してはいた。
その矢先のスカウトだった。
中学生の頃、僕の目の前で彼女はスカウトされた。