春
昼休みの屋上は俺の一番好きな場所だった
暖かいし桜のお蔭で眺めはいいし、何よりあまり人がこない
大方新クラスってんで皆仲良く教室で盛り上がってるからだろうけど
俺は此処で静かに過ごすのが一番いい
(幸せだなー…)
そう青空の下でひとりごちた。
「…野原、菊蔵?」
突然名前を呼ばれたのでそちらを見るとデカい男が独りダルそうな体勢で立っていた。
「そーだけど、あんた誰?」
その男は俺が返事すると同時にニコニコして寄ってくる
「やっぱりー。俺、乃嗚。宜しくねー」
手を差し伸べてくるので握手をした
「ん。宜しく」
(デカいな。)
こんなにデカいと印象的なんだろうが生憎俺は他人への興味があまりないようで1年の時はおろか2年のクラスメイトの名前さえ1人、2人答えるのが精一杯だ
そんな中で他のクラスなんて覚えれる訳がない。
…
「なぁ…」
「んー?」
「いつまで握ってんの…」
『手』と言おうとしてちらりと男を見た
(え…)
近い。思ったのが遅かった
…ちゅ
「…」
何を…
思わぬ出来事に頭が働かなくなる。
「ん。やっぱ可愛いー」
目の前の男はそう言ってニコニコしている
「…おれ…男、なんだけど」
「知ってるよー。見れば判るって」
「…え?」
何を言ってるんだ。
訳の分からない行動をされて俺も混乱する。言いたい言葉が見つからない
「あっイキナリでびっくりするか!そーだよね。ごめんねー。」
語尾を伸ばす口調は相変わらずだが本当に申し訳なさそうに謝られて俺は余計訳が解らなくなる
だけど彼はまた笑う
ニコニコではなくニっと
「俺ね、あんたが好きなんだ。だからちゅーした」
「…は…?」
普通過ぎる理由
多分これが男女ならなんとなく反応の仕様があったろう。
だけど、そうにはいかない
だって俺は男だ。