「伊織…お前、わしに秘密事があるんじゃなかろうな」
あの悲しい程幸せな放課後の一時に、長く細い清香の指でくしけずられた髪…その美しい思い出さえ赦さない義父の汚い手が同じ黒髪に触れる。
「何もないです。私は…秘密など持てる身分じゃありません」
僅かな反発の匂いに、陽介の分厚い唇が歪む。
貫くような視線で伊織のすべてを観察している。
伊織は怯えていた。
この悪魔は自分以外の人間に私が心を奪われていると知ったら…きっと、その相手を探しだし酷い目に遇わせるに違いない…それだけは駄目。
伊織は憐れを誘うような声で囁いた。
「伊織はお義父さま以外の男の人は怖いの…だからお義父さまに隠し事なんてないんです」
か細い声、射し込む月明かりを纏う身体。
陽介は星の数程抱いてきたこの娘に、またしても変わらぬ欲情を覚え驚いていた。
同じ女など三度抱けば飽きてしまう性分にも関わらず、伊織にだけは最初と同じ…いやそれ以上の欲望が尽きることなく湧いてくるのだ。
伊織は見かけ程、弱い少女じゃない。
時折見せる伊織の自分に対する激しい憎しみが、にも関わらず愛欲に壊れていく素晴らしい身体が果てぬ征服欲を生む。
陽介は、おもむろに細い腕を引き寄せた。
「伊織、わしが憎いか」
「い…いいえ」
花びらのような唇が塞がれる。無理矢理ではない…。
抵抗しても無駄だと、もうわかっているから…。
ゆっくり唇が開かされていく。
ぬるぬるした舌が伊織の舌を求める。おずおずと答える伊織。
嫌悪感を出さぬよう気をつけていながらも、不快な酒の匂いに眉根を寄せてしまう。
それを知りながら、陽介は嘲るように舌を突きだす。
次第に激しく絡み合い、唇から唾液が溢れていく…ぴちゃぴちゃと湿った音が暗い部屋に満ちていく。
大きな手で顔を挟まれ、執拗にかき回されて伊織はボウッと意識に膜がかかり始めていた…。