伊織は新たな決意を秘め、三条家の厳つい門をくぐった。
その夜…。
伊織は念入りに身体を磨いた後、夜のお役目へと暗闇へ忍び出た。
いつものようにドアをノックしようとして明かりが漏れているのに気づいた。
「お義父さま?」
ふかふかの赤い絨毯を踏み、恐る恐るベッドに近づき…絶句した。
そこには前夜の伊織の様に裸でベッドに縛り付けられた武瑠と、それを見下ろし不敵に笑う陽介の姿があった。
「お義兄さま!どうして…お義父さま、酷いわ」
口を縛られた武瑠はううっと呻いただけ。
手も足も出ない。
「ふん。昨夜お前らは通じただろう。何、私は全て見ているとも。…伊織」
「は、はい」
「武瑠に恋をしているとは本当か」
伊織は目まぐるしく頭を回転させた。
そして、意を決する。
「そうです。本当に武瑠お義兄さまをお慕いしております」
陽介は笑いを崩さない。
「そうか。実際この時計を後生大事に取っておいたのだからな。そうではないかと思っていた」
これみよがしに金時計を振ってみせる。
時計!
壊れて動かない金時計を捨てずに置いたのは単に高価なブランドもので捨てるには気が引けたからに過ぎない。
三条家の金銭感覚と噛み合わないだけのことだ。
それをまさか陽介が疑っていたとは…。