少女は立ち尽くしていた。
行く手の道には転々と黒く染みが落ちていた。
少女の頬に、道に落ちる筈の雨粒が落ちてきた。
少女は立ち尽くしていた。
その場には少女以外立ち入れないかのように、他に人陰は無かった。
雨粒が少女の身体を洗い始めた。
少女もまた瞳から涙を落としていた。
雨は刻々と激しさを増した。
少女の耳には雨音が聞こえるだけだった。
しかし、少女には直ぐに違う音が混ざってっている事がわかった。
(ギター……?)
少女の心に、灯りのようにその名詞が浮かんだ。
少女の脚は少しずつ、その音へと向かい始めた。
暗いアパートだった。
しかし少女には懐かしく感じられた。
アパートの入り口は開きっぱなしだった。
どこまでも廊下が続く。
雨と違う音はどうやら直ぐ近くから聞こえる。
少女は導かれるように向かった。
音のする扉の前に立ち、少女は叫んだ。
「助けて下さい」
少女の声は掠れていた。
少女は自分の声に驚いた。
扉の向こうから返事は来ない。
「助けて下さい」
少女は自分の出せる力があまりに少ない事に気付いた。
あと一回、少女はそう決めて叫んだ。
「助けて」
言葉の途中で少女は虚しくなった。
胸から咽にかけ痛みが走った。
涙が溢れて止まらなくなった。
少女は腹を抑えた。
座り込み途方に暮れた。
ギターの音で目覚めたのは翌朝だった。