豪雨の中、車の故障した美紀は「最寄りのホテルまで乗せて欲しい」と言った。馴染みのコンビニの駐車場に車を置かせて貰うことにして、美紀を乗せて出発した。
美紀は冒頭に丁寧に名乗り、名刺をくれた。その車中で夫に対する不満を漏らした。余程、夫の対応が気に入らなかったのか、初対面の私にさえ話す。…車が修理出来たとしても今から雨の中、隣県の自宅まで250Kを走らなければならない。夜の高速道は恐くて自信もないなどと話す。私は明日、サービスセンターに修理させる約束をした。美紀は雨の中、車を牽引までしてコンビニに暫定措置が出来たこと、電話してまで故障を心配してくれたことなどで私を信用したのかも知れない、かなり打ち解けて来た。落ち着きを取り戻したようだ。それでも夫に対する不満は出てくる。
夫が社長で自分が専務の会社をしていること、任務分担で、夫が家具を、自分が健康食品、化粧品を受け持つ会社であること、真剣頑張り自分の分担は業績を上げるのだが夫の分担が不振で食われていること、果ては夫とはひどく年が離れていることまで話す。…正確に言えば、そのように答えるように私が質問して、美紀に答えさせたというのが正しい。いずれにしても、夫には相当な不満を持っているのは解った
私は「美紀さん、話を整理しましょう。車は明日修理してホテルまでお届けすればいいですね?修理代が高額なら後日、銀行振込みで話します。後は、美紀さんをホテルまでお送りするってことでいいですね?」というと
「はい。そこまでして頂ければ助かります。…あの…」という美紀を遮り
「あっ、それと私の携帯を言いますから控えて下さい」と言って番号を教えて、名前も名乗った。
美紀は手帳に馴れた手つきで書き込んだ。
「他に何かあります?」と聞くと、「いえ、それで結構です」と言った。
「念のため、私の携帯鳴らしてみて下さい」と言うと美紀は慎重に手帳を見ながらブッシュした。
ポケットの中で私の歌が鳴った。誰かの番号が着信履歴に残った。
「整理がついたら何か安心しましたね。そうだ美紀さん、チェックインの前に食事しませんか、雨も酷いし、また食事に出るの大変だから」というと………「私も、何かお礼をと考えて居ました。ご馳走させて下さい」と美紀がいう。
私の中で何かが騒ぎ出した。