以前、練習する優のレオタード姿を見た時、感じたものだ。段違い平行棒や平均台、床運動など機敏な動きが要求される体操なら運動神経が多分に要求されるが…リボンや縄など持ち華麗に舞う新体操はある意味、色気が必要ではないか?妖艶さを秘めた舞。猿の動きを要求する体操。男を知ったような妖艶さを要求する新体操。…演技を見る者にとって別の次元なのだ。……それを、優勝を優に求めるのは酷だと苦笑したものだ
「私とセックスをして下さい」という優の横顔を見る。前方の一点を見つめる優。私はこれまで優に愛情を感じなかった訳ではない。しかし、それは師弟愛に似たものであって、男女のどろどろした体の関係を伴う愛情なんかではないのだ。
「…先生はいつか…理想の男とセックスして見ろと私に言いました…」
「馬鹿だな優らしくもない。それはだな…」
「判っています。私インターハイで、ライバルの演技を見ながら『あの色気は何処から出るのか、どうしたら表現出来るのか』私には出来ませんでした。私は永遠に勝てないと思います」
「…だから、それは…大学生になって…恋愛して…世の中を見て…」
「先生は、理想の男性と言いました。私の理想の男性は先生です」
「困らすなよ。将来のオリンピック選手が…さあ、コーヒーに行こう」
「降ります。下ろして下さい。コーヒーなんか飲める筈ない。どんな顔して飲むんですか。先生は…私の気持ち、判ってくれない…ですか。下ります」優はドアを開けて下りて歩いて戻っていく。
慌てて前方でUターンする。道路の向こう側を歩く優の後を付けるようにゆっくりと車を進める。
…脳裏に、他の男に抱かれる優。オリンピック会場で妖艶に舞う優が浮かぶ… 500メートルも進んだか…
「優、判った。来い。抱いてやる。抱いてやるから、来い」私は叫んでいた。左右を見渡し道路を横断して走ってくる優。
優は荒い息をしながら助手席に乗り込むと泣きじゃくるばかりだった。
私がバスルームから出ると優はフトンを頭から被りベットの中にいた。
横に滑り込んでフトンをめくると優は、胸にバスタオルを巻き、腹の辺りに手を組んで目を閉じている。体は微かに震えていた。