道路の左側に洒落た喫茶店を見つけた。想像した通り、嫌みのない程度に観葉植物で席が仕切られている、中々雰囲気のある店だった。
「あの−、健さん、単身赴任ですよね?たしか…以前に…そんなお話」
コーヒーが運ばれた後で
美霞は話始めた。
「そうです。もう二年になります。住み易くて…いい所です」
「二年?そうですか…奥様もお淋しいですよね」
「いえいえ、女房は娘フェチで、子供の入学や何かで…淋しいどころじゃないですよ。構って貰えません私のことなど」
私は本当の事を言った。
「でも、その意味では美霞さんは淋しくなくて。ご夫婦一緒で…。」
「違います…でもそうなんだ。一緒に居ることと淋しいってことは次元が違うんだわ、きっと…」
「じゃ、奥様とは?」
今度は美霞が続ける。
「ええ、今年は正月も帰れなくて…もう一年近く顔見てないなぁ」
美霞の質問の答になっているかどうかは解らない返事をした。
「一緒に居ても淋しいこともあるって意味?」
「そうです。家なんか…私がプロゼクトの話をしたり色んな話をしても絡んでも貰えないし…そんな時、女は淋しいの」
私は今日、最大にしてこれから先の岐路に関する右か左かの賭けをした、
「美霞さんは、淋しいこととSEXの不満を結び付けることはある?」
「それは客観的にも『究極のコミュニケーション』と言われてるし、ラブじゃなくても少なくともライクな相手とじゃないと出来ないと本で読んだこともあるわ」
「客観的じゃなく美霞さんの主観です。お聞きしたいのは」私は穏やかに笑いながら聞いた。
美霞は何も答なかった。
微妙な空気が流れる。
「さあ、目覚ましに少し刺激的なお話させて貰って眠気が醒めました。出発しましょうか」
私はレシートを摘んで立ち上がった。
車に行く途中の合々傘の中で、「私も同じかも」
と小さく恥ずかしげに私に言った。主語を探して私の頭を様々な思いが駆け巡る。
雨で道路が空いていたのか 11:30に植物園に着いた。雨で人もまばらである。レストランは美霞が予約してあったと見えて窓際の庭園が見渡せる席が準備されていた。
「お天気良ければなぁ向こうの方まで見えるの」
次々にタイミングよく料理が運ばれてくる。
ボーイが運んでくるワインを私は断った。
「悪いわ。私だけ…いいのかしら昼間から」