「どうぞ、どうぞお構いなく、私の分も…」
一人だけワインを飲むことに気を使う美霞に私は言った。
優雅に摘んで口に運ぶ手つきは多分、外国で学んだマナーだろう。
「花って、雨が降ると花粉を濡らすまいとして、殆どの花が俯いちゃう。だから、見ても人間の方を向いてくれないの。」
ワインでほんのり顔を赤らめて美霞は語ってくれる。…足元も濡れることだし、ここから見るだけにしましょう…と言う。
「緑のホスピタル、是非成功させないとな。注目度は高いと思うよ」
「そうなの。共生の時代を反映したペットブームエコ、環境の時代に入った園芸どちらも1兆円産業と言われているわ。」
温暖化で動物も植物も生息地がどんどん北上して東京で熱帯植物が育ち、ワニが下水道に生きると言う。北海道が米所、東北地方にとってかわろうとしている。
生態系を崩壊させるのだ
…美霞は熱っぽく語る。
「生態系と言えば、日本人の思考回路も変化してると英国の学者が書いてたよ。かっての男の武士道が失われて、基盤である家、家系など男が誇りとしなくなった」
「それで?」
美霞はワインで顔を赤らめながら、興味を示す。
「男は地位、名誉、名声、出世、優位性を求める事に快感を覚える。妻との快感よりもね。釣られた魚のように半殺しにされた妻が、パフィオのように外に水を求めるのは必然であり、妻が生きるための『必要悪』だってこと。妻は旦那にそのようなものは求めてはないってね」
「健さん。健さんのお話面白い。おビールで聞かせて頂いて、いいかしら…喉が渇くわ…」
ワインによっている。
ボーイがビールをグラスで運んで来る。
「つまり、植物も動物も地球上の全てが生存本能を持ってて…本能が生きる道を探し当てる。人間だって男や女だってパフィオだって。東京のワニもブーゲンビリアも北海道の米もね」
「必要悪ね…健さんは…一々私を震わせる…隠しても…心の襞の中に隠したものを…探り当てる…そして納得させる…私そんなに強くない…」
涙ぐんだようにもみえる 「ごめん。そんなつもりじゃない、美霞さんの東京の話聞いて、つい…」
「健さん…ここ出ませんか。何処か別の場所で」
パフィオの花がポトリと落ちる前のように呟いた