それからは特に騒々しかった
移動中俺を見つけては駆け寄ってきたり
食堂で会えば隣をがっちりガードされ
屋上に行けば俺の指定席だったこの場所には
奴の姿が必ずあった
一歩間違えれば…いや間違わくともストーカー行為だ。
それは怒りを通り越し呆れる程に。
たまに感心すら覚える
…こいつ忍者なんじゃないか?
「野原ー」
そう笑顔で何処からでも駆け寄ってくる姿はまるで飼い主を見つけて喜ぶ犬だ
こいつはそんな可愛いもんじゃないけど
どちらかというとドーベルマンだし…
「いい加減にしろよ…」
相変わらず側にいる男に俺は昼食用のパンを片手に我慢の限界をぶつけた
「うわぁーすげぇ怒ってる」
「当たり前だろっ!何で四六時中アンタにつきまとわれなきゃいけないんだ!」
「だって野原ねらってる子いっぱいいるもん」
…は?
「野原鈍いから判んないだろーけどー、俺知ってる中でも5,6人はいるね。あ、勿論女だけど」
(そうなんだ…)
「…て、今そんな理由なんか聞いてな…―」
最後の一文字はずいっと近寄せられた顔の所為で失われた
反射的に体制が崩れるとこいつはまるで見計らったように上手く覆い被さってくる
「な、にすんだ…」
「今どんな子かなって思ったんじゃない?」
…は?
「何が…」
「知ってる子かな、とかー?」
「…別に思ってない」
本当はちょっと気になったけど…
「?!ッちょ…!」
するりと、シャツの乱れた部分から生暖かい指先が侵入する
「やめろ…って…」
「怖いよねー、男にこんなんされて」
目が笑ってない
「でもごめんね?野原のその顔すげぇそそるから」