私は歯の浮くようなキザな麗句を言った。
菊乃は照れていた。
「え〜。どうしょう」
「ご主人が海外旅行なんて…こんな時しかゆっくり出来ませんよ。それとも定期のラブコールでもあるかな」
ウエートレスが注文を取りに来た。私は菊乃に断りなくビーフステーキをオーダーした。ビールとコーラも。
ウエートレスが去ると菊乃はムキになるように、「いえいえ。今更…ありませんよ。…おばさんですもの。…それで?いい所って?どんな所、あります?」
「そうだなあ、子供が喜ぶ所やカップルとか…素敵な大人のアダルト向けまで。サプライズもありかな」
料理が来てビールのグラスが自分の前に並べられても菊乃は無言だった。
「じゃ、乾杯しますか」
私はコーラ、菊乃はビールを掲げた。
「乾杯!」
一口、グイっと飲んだ菊乃は、小さくウインクし
「あ〜あ。飲んじゃったおビール」
「あはは。大丈夫。駐車場は。このモールは 24H営業だから醒めますよ。…ビールはお好き?」
「最初の一杯だけ。このお肉も美味しそう」
「さあ、食べましょう」
「健さんは、何かスポーツされてたんですか」
「学生時代はテニスをしてました。卒業してから草野球…今はゴルフを少々…ですね。…これでも学生時代はモテたんですよ。今は面影もありませんがね」
「スポーツマンなんだ。今だって、おモテになるでしょ」
ナイフとフォークを巧みに使いマナー通りに菊乃は食べる。
「菊乃さん、どちらか外国にでも?」
「何故ですか?判ります?…外国と言っても香港とフランス、イギリスにそれぞれ半年ですが…航空会社に勤めてました」
「やっぱり。イギリスは判りましたよ。その手つきで…綺麗に使う」
「そうですか。イギリスでは厳しかったです。食事中に叩かれるんです。ここを…」
手首の辺りを指差す。
そして菊乃は、肉を食べ終えた後、パンをちぎってソースを片付けて…グラスを空にした。
その時、私の携帯が鳴って、裾上げが完了した知らせが入った。
「裾上げ完了だそうです行きましょう。どこか静かな所で試着しないとね菊乃さんのファッションショー。」