「彩さん、いいんですよ気を使わないで…お金持ちでもないけど焼肉でいいの」「遠慮しません」
私は彩を、幾つか店を通り過ぎ、最もいかがわしい焼肉屋に連れ込んだ。
「雰囲気あっていいわ」
彩は言う。私は更に1番奥の汚い畳の部屋に進む
彩は屈託なくついてくる
「アゲマンを焼肉屋か」
「そうそう、健さん、何で私なんかを…アゲマンだとか」「彩さん見た日はビッグビジネスが成約した
り、問い合わせが舞い込んだり…いいことが起きる」「本当?私も今後注意してアゲマン探そう」
それでも私は最上級の肉ばかり各三人前ずつオーダーした。生ビールとレモン水、中國茶も…
チクリ、チクリと責めなければと思う。「彩さん 焼肉はニンニクがないと美味しくないよ。匂いを
消す方法知らないの?牛乳たっぷり飲むんです。食後にね。それに二人で食べれば気にならない」
肉と飲み物が揃った。
彩の前にジョッキを置き
「アゲマンに乾杯」彩はつられてジョッキを持つ
「えっ私だけ?おビール
。いいんですか」「新聞に載りたくないよ。『今日午後〇時頃、人妻と』
なんてね。私はいいけど彩さん、破滅だ」「ごめんなさいね。…でも私だって構わないけど。……
「彩さん、そんなオバカさん言って。子供はね、入学だ、就職だ、結婚だで両親が必要なんですよ」
「解ってます。健さん、優しいわ。男なのに解っておられる。だから仮面夫婦なのよ…世間体…」
ジョッキは残り少ない。
「健さん…今日は楽しく…家庭など忘れて過ごしたい」「ごめん、ごめん
妻や母じゃなく女だね」
「そうです。こんなこと…最近…ないもの…焼肉は美味しいし…幸せ…」
「じゃ女の彩さんにお願いだけど、いつまでも女でいてね。横断歩道で素敵に綺麗にアゲマンで」
「そうですね。枯れたくないわ。みずみずしい女でいたいわね。健さんからのお手紙なんかドキド
キするんですよ。女って実感がして。『ああ誰かが私を見てくれてる』って思う。」
私はジョッキを追加した