「義姉さん、気にすることないからね。兄貴は近頃、おかしいんだ」
「ううん、大丈夫。ありがとう、勝さん」
義姉は涙目をしながらも寂しく笑顔を俺に向けた
兄と俺は六つ違いだ。
兄は子供の頃から頭も良く、またスポーツは何をしても器用にこなした。
いつも俺は勉強の出来ないことを兄に比較され育った。
兄は国立大学を卒業して某大手自動車メーカーに入社した。大学野球でも駿足好打の外野手として活躍した兄の結婚式は派手な披露宴だった。
大学時代に、二歳年下の女性と結婚した。
義姉は美人で、大学でも評判だったらしい。
俺は、陸上競技を選び兄が東京に建てた自宅から大学に通っている身だ。
兄は自宅の設計に当たっても、将来の子供部屋を想定して俺の大学生活の下宿部屋にしてくれた。
だから俺も、遊んでいるように見えても、ランキング表には名前が乗るようになった。国際試合を目指すつもりだ。
俺が記録会や合宿、海外遠征に頑張れる原動力は……義姉だ。
海外は無理だとしても、都内の試合では、常に義姉の応援がスタンドにあった。
新聞の切り抜きや、全ての俺のデータは義姉は集めてくれていた。
北海道の母からは俺の生活費は送金されている筈であるが、義姉が作る俺の栄養管理などを考えた食事は、送金額を越えているのは間違いない。
俺が大学に入学した当時は、六歳も年が離れると、兄と言うより父親であり、四歳年上の義姉は、母親のような錯覚をすることもあった。
…だが、23才になった今、自分も大人にならなければ、競技そのものが伸びないし、何よりも心・技・体の形成は俺にとっても急務なのだ。
近頃、兄が社内人事に関して面白くないことがあると見えて、険悪なのだ
…社会人野球に加盟している自社チームの監督、コーチ人事。自分の昇級問題など複雑な人間関係があるらしい。
が、仮にそれらがあったとしても、義姉に当たり散らすことはない。
会社に於ける自分の問題である。…自分の悩み、現状を相談し義姉の考えも聞き、悩みを共有する夫婦であって欲しい。嫌、その方が兄らしい。どうしたのだ。賢明な兄