六月、生徒も少なく教習所は閑散としている。そんな中、高沢亜也は免許をとるため今日も教習所にいた。 愛想も良くスタイルのいい亜也は教官の中でも噂の種だった。
「今日は飯田教官かぁ…」飯田は、亜也が一番苦手な教官だった。他の教官が亜也をチヤホヤする中飯田だけがいつも亜也に厳しく、時々冷ややかな目で亜也を見た。「でも今日は学科だし他の人もいるから私だけ怒られたりはしないよね」
亜也は席につき授業が始まるのを待った。しかし、チャイムが鳴っても生徒はひとりもこない。ややあって、飯田が入ってきた。「なんだ、おまえひとりか」
飯田は教卓につくと、大きな音をたてて教科書をおいた。「今日はビデオだけだからな。寝るなよ」そう言って部屋の遮光カーテンを閉じた。ビデオをつけて飯田は教室のすみの椅子に腰をおろした。亜也を見ると、あきらかに緊張しているのがわかった。椅子が音をたてるだけでビクっとしてこちらを見る。白い首筋、赤い唇、細い体の線と反するまるい胸。そしておびえたような瞳。飯田は亜也のそばにたった。亜也は飯田を見上げた。冷たい目で見下ろされて、亜也はどうしようもないほてりを感じていた。