「…ゆみ…ゆみ…」こうちゃんの声で私は我に返った。
「ごめ〜ん。なんか昔の事思い出してぼぉっとしちゃってた。」なんて言ってごまかした。
「なんだよ。ゆみは今、幸せなんだろう。調子いいかもしんないけどゆみが幸せで俺、安心したよ。」
「えへへっ」私は思いっきり笑って見せた。
さっきの光景が脳裏から離れない。
「そろそろ帰ろうか。」
「だねっ。」
私達はカフェを出て駅まで向かった。
「ゆみさぁ本当色っぽくなったよなぁ。付き合っていた頃なら即襲ってたよ。」笑いながらこうちゃんは言った。
「襲って…」私はどうでもよくなっていた。
「おいおいどうしたんだよ。」
「帰りたくない…」私は1人になりたくなかった。今、帰るときっと市川さんに電話してしまう。会いたい。そして責めてしまうと思った。そんな面倒くさい女だと思われたくなかった。
「ゆみ…?」私の様子が変だと察したこうちゃんは私の手を握り私の手をひいて歩き始めた。ずっと無言のまま私は手をひかれながら市川さんの事ばかりを考えていた。こうちゃんは昔と変わらず優しかった。どこをどう歩いたのか気がつくと見たことのある場所にたどり着いた。そこは付き合っていた頃よく来た丘の上だった。