パパに抱きしめられて、
ようやく気持ちの落ち着いたあたしは、
ホテルでの出来事に突き当たる。
赤ちゃん……。
パパとあたしの赤ちゃんが、
お腹の中にいる!
パパに知らせなきゃ!
「パパ…、あのね。
あたしのお腹には…」
するとパパ、
すごく苦しそうな顔で、あたしの唇を、指で制した。
そして、じっとあたしを見つめて、
首を横に振った。
えっ?
あたしは首を傾げた。
「赤ん坊は、…ダメだったよ」
「そ、そんな……。
いっ、いやあああああっ!」
あたしは、髪を掻きむしり、
狂ったように叫んだ。
そんなことは、最初からわかってたこと。
覚悟してたこと。
でも、覚悟してるからって、ショックが半減するわけじゃない。
いちばん大好きな人の赤ちゃんを喪った悲しみは、
経験した人でなきゃわからない。
パパがあたしを抱きすくめた。
「ちえ、落ち着いて。
あの子は、
そういう運命だったんだ…。
千絵…。
……すまない」
パパの言葉で、
あたしの気持ちは
ほんの少し、楽になった。
パパも悲しんでくれてることは、
あたしには救いだった。。
だけど…。
あたし、また殺してしまった……。
この事実は、
変わらない……。
いったいあたしの周りで、
何人の人が死んでいくんだろう…。
あたしはその夜、一晩中泣いていた。
二日後。
退院したあたしは、
パパといっしょに故郷に帰ることになった。
「ホントにいいの?パパ」
あたしが訊ねると、
パパはあたしをむぎゅっと抱いて、言ってくれたのだ。
「そばにいてほしいんだ。
あんなひどいことを言ったのに、
勝手だとはわかってる。
でも、千絵と暮らしたいんだ。
パパは……、
千絵がいないとダメなんだ」
あたしは、腕の中で、
小さく頷いた。