私は入会時に受け取った書類の中から「ロッカー規約」を抜き出して目を通した。年間料金50000円、室内の改造、ガム、セロなどの粘着テープ類の使用、画鋲の使用、室内設備の持ち出し及び移動 、その他これに類する行為は一切厳禁。健康上の都合及びトレーニングによる疲労に伴う仮眠休憩はクラブ営業時間内に限り可。違反した場合は……細々と規定されていた
違約しないように許可も取り、二回に分けて備品を運び込んだ。無断で行ったことと言えば私がラウンジでコーヒータイムに貴子が抜け出し、ロッカー室の合い鍵を作ったことくらいだ。
「ねえ、ねえ、コーチ!
この部屋では、全裸で居ること って決めませんかきっと、楽しいと思う」
備え付けロッカーに備品を入れながら貴子が又、突拍子なことをいう。
私はセンターで購入したロッカーを組み立てながら、思わず大声で笑った
「貴子だけでいいよ。男の裸なんか意味がないだろう。なんか又、考えてるな、スケベ貴子チャンが」俺は貴子の顔も見ず言う
「じゃぁ、じゃぁコーチ、バスローブ一枚!…それならいいでしょ?」
「…それなら、いいけどな。これ以上、エッチな事を考えるなら、お仕置きするぞ」私は貴子を驚かそうとポケットのリモコンバイブのスイッチON
「キャー、残念でした!コーチ見て、見て…バックが悶えてる。ほら…気持ち、良さそ!バック」
貴子は自分の小型バックを私の耳に押し付ける…
バックの中からモータ音が聞こえ、微かな振動が伝わって来る……。
私は可笑しくも、腹立たしくスイッチを切る。
「だって、コーチ、これって可笑しい。部屋で使っても楽しくない。人込みの中で、二人だけが知ってて、使う物ですね。ショッピングセンターでは凄い快感だった…」
??人込みの中で二人だけが知ってて使う物?
…コーチの指示が競技中の選手には伝わらない。アイコンタクトや声は通用しない。…お前は今何位で泳いでる…少しピッチを上げろ、押さえろ、コース修正しろ、ターンが深い、浅い…伝えたいことは山ほどある!バイブは薬物ではない、ドーピングには該当しない?…イリガルか?どこが?…水中を電波が飛ぶか?頭の片隅で燻る何かがまた膨らんでくる。邪道だろうか。水着でもコンマ 000秒の次元でしのぎを削っている…。
「コーチ、入れました」
折りたたみのビーチチェアをリクライニングして貴子が言った。スカートの奥に下着が見えた…