「運転代わろうか?」
私が言うと、聡子は救われたような表情になる。
この後の事を考えたら、
喜んでなんていられないのに…。
その時、信号が変わった。
聡子はとりあえず車を発進させて、
100メートルほど先の路肩に停車した。
「じゃあ、助手席に移りなさい」
私は、身体を運転席に滑らせる。
聡子は仕方なく、全裸のまま、車外に出る。
この時間帯は、ちょうど帰宅ラッシュで、
車は引っ切りなしに通る。
聡子は顔を紅潮させ、小走りに車の前を巡って、右側の助手席に移動する。
そして、聡子が助手席のドアを開ける直前、
私は車内からロックした。
慌てふためき、
必死でドアをガチャガチャする、全裸の聡子。
通過車両のドライバーが、好奇心と軽蔑に満ちた顔で見ている。
聡子は、ガラスを叩きながら、何やら必死で喚いている。
でも、ベンツの防音は完璧で、殆ど聞こえない。
まあ、どうせ、
「開けて!」とか、
「助けて!」なんて、言ってるんだろうが…。
私は焦りまくる聡子を
路上に残して、車を発進させた。
100メートルほど走って、
私は車を止る。
バックミラーで見ていると、
全身の贅肉を躍らせながら、
聡子が駆けてくる。
必死の形相で、髪を振り乱して…。
私は、聡子が追い付いて来るのを待つ。
まだまだ虐め足りないが、
余り過激にして、
通報でもされたら、大変だ。
それに、
内科医としての、私の職業倫理が、訴える。
身長160センチ、70キロを越える聡子には、
この程度が限界…。
これ以上、全力疾走させれば、
心臓が破裂しかねない。