それから、先輩は風邪で寝込んでしまった。
あの嫌な咳をしていた次の日から。
そして…それを境に全てが変わってしまった。
屋上に二人はいた。
木崎優輝…転校生と、亮二先輩。
二人は奇妙に馴れ合いながら、一種独特の空気を共有していた。
親密、というのじゃなく…慰め?
癒し…。
初めて、偶然に屋上で二人が唇を触れ合わせた場面を見た時…僕は愕然として…走っていた。
鈍感で、馬鹿な僕は、それを…逃げた理由を突き詰めなかった。
焼かれるような思い。
僕は、先輩の隣にいたかった。
でも今は、木崎がいる。
先輩の自信なげなキスを見て僕は傷ついた。
優しくて、おどおどしていて…泣きたくなる。
あんな目をして、見るなんて。
あんな風に抱くなんて。
どうして…?
どうして僕じゃないの?
その感情は認めたくなかったから、僕は逃げたんだ。
負け犬。
はなから勝負もしない。
人間関係に怯えていたから今更どうしていいか解らないんだ。
僕は…それでも、僕は…
先輩を見つめていたい。
この感情に敢えて名前はつけないけど…僕の視線の先にはいつも二人がいた。
見たくないのに。
見る度に痛いのに。
泣きたくなるのに。
そして、やっと気づいた
先輩が木崎と決着をつけたいま、ようやく言える
恋してる。
好きで好きで、たまらない…。
本当はもっと前から知っていたけど。
僕はどうしたらいいんだろう?
今更気づいてなんになるんだろう?
不器用な僕に答えは見つかるのかな…。