「償う?んですね?万引きの罪を…罰を受けて償う!…自分の犯したことだから…それは当然です私も…そう思います。
…じゃ、償った後私には何も残らない!…償って…死にます…」
志乃は知らぬ土地でひっそりと生きて行く自分の姿はイメージ出来なかった。堪えられなかった。恥ずかしい人生!
* * *
猛は志乃という女の目を見つめた。
潔癖そうな性格の女の目を見つめていると、もしかして、本当に死ぬ気かも…とも思えて来る。
「じゃあ、先輩は、仮に私が、警察に連絡せずにこの書類を破棄して万引きを見逃せば、今まで通り、生きていけるのですか?…万引きなどしなかったと言う前提の人生を歩いて行くんですか」
猛は結論を聞いてみた。
「…問題が違います。私の気持ちはともかくとして、結果として私はバックにボールを入れていました。それは事実、万引きです!あなたが万引きを見ています。代金は払わせて頂きますが…事実は消えません」
女は思い詰めている。
「私が万引きの事実を知っている。知っている者が一人でもいる限り、事実は消えないと?そう言うんですか?私を信用出来ないと言う風にも聞こえますよ」
猛は女の目を見て言った
「そんなこととも…全く違います!」
「大学の先輩を犯罪者にしたくもないし、ましてやそれが原因で自殺なんて事もして欲しくありません!…いいですか先輩、私は死ぬという、あなたの言葉に恫喝されるつもりはありません。あなたの勝手です。…私が出来る最終的な提案です。よく聞いて下さいよ、二回は言いませんからね」
猛は念を押して続けた。
「先輩が言うようにこの事実はまだ私しか知らない。…次に、店内の陳列ケースの中にあったこのテニスボールは私の物だ!…警察ではなく、盗まれた私が先輩の万引きの量刑を決めます」
猛はそこで言葉を切った
「先ず、品物代金 385円を私に支払うこと。二つ目、先輩が命の次に大切にして来たもの、つまり 貞操を、一晩だけ私に下さい。この書類は先輩にお返しします!…下賎な後輩、最低の男と思うならそれでも結構です!そんな事をするくらいなら死んだ方が増し、と考えるならご勝手に!…出来の悪い後輩が頭を絞って考えた善後策です。30分だけ返事を待ちます」
猛はケータイ番号のメモを残して車を後にした