「鈴…お前、マジで言ってんの?」
僕は真面目だ。
震える指先で気づいて。
「先輩が好きです。苦しいんです…僕は…」
腰に手を回したままの状態で、くるりと先輩は向き直った。
僕は恥ずかしくて顔が見られないから、先輩の胸に頭を押し付けている。
眼鏡潰れそう。
「鈴!」
呼ばれても見れない。
先輩が、僕の頬に手を添えて…優しく仰がせる。
「泣くなよ、馬鹿」
切なそうな先輩の瞳。
女の子相手にするみたいに、僕の顎に指が伸びて…引き寄せる…。
唇が触れそう…。
でも、触れない。
先輩はしない。
僕は唇を噛んだ。
悲しそうな目を間近でみて僕のなかに木崎を探そうとしてるんだ。
「…ごめんな、鈴…俺は…俺が好きなのは…」
嫌だ!
僕は先輩に強く抱き締められた。
「…なんだ」
小さく呟かれた言葉。
優輝なんだ。
僕は弾かれたように先輩を突き飛ばして後ずさった。
「鈴…」
僕は両耳を塞いで叫んだ
聞きたくない、
聞きたくないっ
僕は逃げた。
先輩がなにか遠くで言っていたような気がするけど…僕には解らなかった
走って、
走って、走って
その時、リイチ先輩と廊下を歩くあいつ…転校生を見つけた。
幸せそうに笑いあって。
僕は真っ赤な目をして…
木崎優輝に掴みかかった
「な、なんだ…」
呆気にとられた転校生を壁に押し付ける。
泣きながら、僕は手を振り上げた。
こいつを殴ってやりたい
目の前が真っ赤になる。
でも…振り上げた手は、拳を握り締めたまま…下ろせなかった。
震える。
身体が震える。
倒れそうだ。
その時、ふわっと拳を包まれた。
振り返ると、悲しい、けどまっすぐなリイチ先輩の目があった。
「…殴っちゃ、ダメ」
思いがけない、優しくて可愛らしい口調に僕は吹き出した。
緊張が緩んで…ゲラゲラ笑って…それから泣いた
完全に変人だ。
僕は…壊れちゃったのかなあ…。