島のお年寄り達は暇だ。
高速フェリーの接岸桟橋に面して、郵便局、老人憩いの家、自販機、小型スーパーを兼ねたたまり場がある。
元気な者は一日一回は顔を出し、元気な自分を皆に見せるのが挨拶となっている。
家で作ったお茶受けを持ち寄るのも恒例なのだ。
二日も顔を見ないと大騒ぎとなる。
女達の長老に、オシゲ婆さんと言う名前の婆さんがいた。
島の女達の団結を強い。町の女は所詮よそ者であるが私は完全に島の女として認めてくれていた。
中学教諭でありながら島の男の嫁になってくれたと喜んでくれたこと、にも拘わらず、海難事故で夫を亡くしたこと、フェリーを降りて仕事の帰りにたまり場に茶菓子を置いて帰ること等を私が欠かさなかったために、自分の娘のように可愛がってくれていた。
女ボス、オシゲ婆さんに義母は籐ミイの話しをしたらしい。…義母に泣かれて、泣くのを止めて貰うために、「その時には、籐ミイを頼むから」泣くのは止めてと義母に言葉の綾で言ったのであるが、オシゲ婆さんは、そうは思わなかったようである。私の名前は美菜子であるが「美菜さん」と皆は呼ぶ。
ある日、フェリーから降りるとオシゲ婆さんが、
「ミナー、美菜さ〜ん」とたまり場の奥から手招きをする。
私は何時ものようにビニール袋の茶菓子を差し出した、礼も言わずに、
「うんうん、聞いた聞いた。で、誰に行かせようか?夜這いは。誰がいい?…私しゃ、悟がいいと思うけど。いいな?それで!…持ちモンもいいらしい。文句ねえな?」
オシゲ婆さんは辺りを見回しながら私の耳に手を当てて聞いて来た。
「オシゲさん、何の話し、もうイヤーだー」
私はオシゲ婆さんの肩を叩いて言った。
「うんうん、私しゃ、いつあんたが言うて来るかと思うちょった!良かった良かった!うんうん」
私が黙って睨んでいると
「うんうん、町の先生でも、島に帰ったら島の女にならんとな。しきたりに従って。うんうん…学校が休みの…前の晩がいいわな?…ゆっくり寝れて。うんうん。そうかそうか。だわな?」
私にものを言わせてくれない!
「もう!義母さん、どんな話し、したの?もう」
私は口を尖らせてオシゲ婆さんに抗議した。
とは言え、義母から籐ミイの話しを聞いた晩からモヤモヤした気分になっていたのは確かだった。