僕はバカだ。
大人ぶっていたけど、結局子供なんだ。
転校生…いや、木崎先輩をどうこう言う資格があるはずないのに。
僕はふらりと立ち上がって、お辞儀をした。
リイチ先輩は、悲しそうな…不思議に輝く目で僕を見つめた。
「…リョウにはね、誰かが必要だよ。それが君かは解らないけれど」
僕は泣きたくなった。
リイチ先輩の声は可愛らしいけれど、強く響いた
木崎先輩は戸惑いの表情で僕を見送っていた。
僕は、そのまま振り返らずに部屋を出た…。
僕は、それから1週間リョウ先輩に会わなかった
いや、会わないようにしていた。
怖くて…拒絶されたら、僕はどうしたらいい?
先輩のことを思うだけで胸が痛い。
いっそ、記憶をなくしたい。僕は恋をする前の、自分に戻りたかった。
「鈴」
ある日の放課後、懐かしい声が僕の背後から聞こえた。
先輩だ。
僕は振り返らずに止まった。
心臓がおかしいくらい鳴っていて、雑音が消えた
「鈴」
もう一度、声がする。
僕は鞄を抱き締めたまま歩き始めた。
ゆっくり、先輩から離れていく。
足音がする。
先輩が追ってくる。
肩を掴まれた。
僕は…止まった。
「鈴、こっち向けよ」
嫌だ。
僕が走ろうとすると、強い力で壁に押し付けられた。眼鏡が傾いた。
目の前に、リョウ先輩の顔…綺麗な両目のなかに僕がいる。
「…なんですか」
「なんで、避ける」
なんでだって?
僕は内側から怒りがこみあげてきた。
押さえつけられた手を外そうともがく。
「普通に戻れって言うんですか?
僕の…想いを、そうやって誤魔化すんですか?
僕が…どれだけ貴方を、本当に好きかなんて、貴方には関係ないんだ!」
力が全然違う!
両肩に置かれた手がビクともしない!
「俺は…」
先輩の目が泳ぐ。
僕はカッとして叫んだ。
「貴方の、貴方を慕う
「可愛い後輩」に戻れたら貴方が楽なら、僕はそれだって構わな…」
先輩の唇が、悲鳴みたいに叫んだ僕の唇に被さった。
「っつ…」
リョウ先輩が、顔をしかめて離れた。
唇から血が零れる。
僕が噛みついたから。
「…まっぴらだ、こんな…同情なんて」
僕は思い切り突き飛ばして、走っていた。
先輩から離れられるならどこへだって行く。