「あんたは罪を犯したことは認める?があんたを証明するものは何もない!書いた物に意味はない!…どうかな、山で犯した罪は山で禊ぎ綺麗な体で帰らないか?…ここで私に抱かれてみないか」
「エエッ!ここであなたに抱かれることが、綺麗な身体で帰ることになるのですか?」
私は思ってもいない言葉を聞いた。
「そうだ!俗世間を離れてみれば良く判る!プライド、世間体、しがらみ、誹謗中傷、競争社会そんな社会で、たかが草木一本、枝を折ってポケットに入れれば罪は罪。
下界で生きて行くのは大変だ!単に見逃して喜ぶ子供でもないんじゃないか、あんた!誰も知らない所で償って、堂々と生きて行かないか?住所も氏名も電話番号も尋ねはしない!どこの誰かは判りもしない…」
男はそう言いながら、調書のカーボン紙を抜いて下敷きから上をちぎると二、三回 ねじるとライターで火をつけた。
微かに音を立てて燃え尽きるまで二人、何も言葉は発しなかった。
指先まで来た、燃え残りをポイと焼却缶に投げ込んで男はニコッと笑った
「因果な仕事よ!」
男はそう言って、調書綴りや朱肉、筆記用具をバックに仕舞った。
「ごっそさん!…気障だけど…オフクロの味がした!美味かった!…これは頂いとく」
オニギリは三つ、減っただけだ。ペットボトルをバックの横のポケットに差し込んだ。
部屋の中をぐるりと見回し、焼却缶の中を覗き、バックを背負うと、
「いいよ、帰って。」
と言った。
「待って下さい!…返事は、私に返事はさせて頂けないのですか?」
男はじっと私を見つめる
「償えますか?みそぎはそれで終わるのですか」
私が男に問い返す。
農作業用頭巾を目深に被った私。新聞もテレビも興味ない男。
確かに「単なる男と女」である。
「それは、あんたの抱かれ方による!…いやいや抱かれるのか、罪を悔いて自ら進んで、罪を償おうと積極的に抱かれるのか。あんたが今後生きて行く上で180度違ってくる筈だ……私は強姦するつもりはない!…私は来週の今日もここに来る。この時間!」
男は先に歩き始めた。
「100m 下ると小さな沢に出る。後は舗装道路が村まで続く…」男が指差す。