小屋を出掛けに気配は感じたが、異常な精神状態の中で生理が始まったようだ。男と別れて直ぐ、横道に逸れて生理用品を取り出した。
車まで帰り、着替えをしている所に、双子のように似たおばあちゃんが二人で出迎えてくれた。
「ほら、テレビに出てる先生!知ってるだろ!活け花の」「あぁ、ああ、あの先生!」
二人の関係は読める。
「あ、おばあちゃん!勝手にお山に行かせて貰いました!横道に逸れちゃいましたけど…おじいちゃんに宜しくね」
私は早々と辞した。
それからの一週間は地獄のような日が続いた。
順調だった生理が二日も早く始まったこと、秋の製作発表会のこと、主人の海外出張の準備…なによりも山での出来事が大きく気持ちの中にあった
…あの男が農林水産省に口頭報告でもして、警察が秋元さんの家を訪問して…私の駐車場を刑事が虫眼鏡で調べている場面などが浮かんでくる。
カメラを担いだ報道陣が教室になだれ込み、私が連行される場面を撮ったり…テレビニュースに私が映ったりする場面が浮かぶ…熟睡した日は一日もなかった。
遠くで二三人、人が集まってるのを見ると、私のウワサをしていると思う
二日目には目の下にクマが出来た。
いくら化粧しても隠せない!…遠くでパトカーのサイレンが聞こえると窓のブラインドから覗いたりした。
電話の着信音に恐怖を感じた!
出張中の主人に一部始終をしたためて、置き手紙を書いて…破いた。
あの男が言ったように、罪が償えていないのだ!
私はいつ逮捕されるか判らない犯罪者なのだ!
私は何にも手に着かなかった。上の空!
「先生、どうされたんですか?体調でも悪いんですか…」
何人から言われただろう
十人やそこらではない。
私はどんどんと自分を追い込んで行った。
かって誰かが「ペンは剣よりも強し」と言った。
書いた物は人が読むまでに時間がかかる。
今はスピードが違うのだ
映像が瞬時に世界中を駆け巡る。
幼い頃から大学、華道茶道を通じて外国にも知人友人がいる。
私を先生と呼んでくれる、偉そうに、侘びさびを説いた弟子がいる。
仕事に対する自信をなくして行った。
世間が知る前に、早く償わなければ!