「お邪魔します!いらしてたんですか?先日は大変ご迷惑をお掛けしました…。」
私は丁寧に挨拶と詫びを言った。男は黙ってマグカップを差し出した。
焼却缶のフタの上に携帯ガスバーナーとコッフェルが置かれていた。
「ああ、いい香り!お茶ですか?これ…」
私が尋ねると、
「頭が良さそうだから、言うが、サザンカだ。どんな字を書くか、知ってるね。人間は花ばかりを愛でるが…茶だ」
「日本茶は八十八夜の一番から盆に摘む三番茶だ山茶花は少し遅れる。
これは三番茶の生葉だ。どっちも三番茶が旨い!一番茶、二番茶は元気が良すぎる。三番茶は摘まれて痛んで疲れた木から、そよぐような柔らかい芽を吹く…香り、味、色…人間の身体で言えば…あんたの年齢が旨い…」
私は瞬間、身体を何かが走りぬけ、カーッとたぎるような熱を帯びた。
「!山茶花ですか?初めてご相伴に預かります!山茶花の三番の生葉…」
儀礼だ!私はマグカップを包むようにして飲んだ
そして又、あの沈黙が続く…男がコッフェルを差し出す…私はマグカップで受ける…
「なやんだね。一週間」
「はい!地獄にいます」
時間がゆっくり流れる。
「で?!」
「償いに参りました」
「厭味、つらみを含んでイヤイヤじゃなく…?」
「はい!自分の非を悔いて…私から進んで!償いをさせて頂きたくて…」
男は一時も私から目を逸らせない!…私も。
「あんたの目を見れば判る!私はたかが草木の一本を責めるつもりなどない!あんたが若い娘ならこんなことは、言わない
…人生は前に進むだけでなく、時々、立ち止まって、来し方を振り返って行く末を定めることが大事と思う。あの時、現場であんたの目を見て、自信に溢れ、攻撃的に生きて来たのが判った!
ちょっと心配しただけ!
今日のあんたは三番茶の柔らかな目をしてる!
私の目的は達した。……だが『もう判った』といっても子供じゃないこのまま山を降りてもあんたは地獄から出ようとせん!何か代償を払わんと納得出来んじゃないのか?」
「おっしゃる通りです」
「進んで身体で代償を払って、領収書を持って真っ白な無垢の身体で地獄から抜け出すか」