なんで、キスなんか…。
木崎先輩を失って、僕まで失うことに耐えられなかったの?
先輩は…そんなに弱い人間なの?
それとも僕のこと、少しは好きなの…?
わかんない、わかんないよ、先輩のことがひとつもわかんない。
僕は自分の部屋で寝転がっていた。
唇を舐めると僅かに血の味が残る。
ふっと、先輩が泣いた日のことを思い出した。
俺は汚い。
先輩は吐き出すように呟いた。
…先輩は強くて、なんでもできると思っていた。
僕は…先輩をわかろうとしていたんだろうか?
自分の想いだけをぶつけて、先輩を理解しようとしたのかな…。
先輩が、弱くても…僕は結局、こんなに好きなんだ。
汚くたって、自分勝手だって、僕が孤独だと気づかせてくれて手を差し伸べて引き上げてくれたのは先輩だったんだ。
僕は…。
僕がしなきゃいけないのは…。
想いを受け入れて貰って恋人になることじゃない
苦しんでいる先輩を、僕がしてもらったように引き上げてあげることじゃないか…?
ベッドから起き上がった
僕は苦しかった…胸が痛かった…けど、何かが変わった。
あの強引なキスは先輩の苦しみそのものだ。
なら…。
僕は屋上に向かう。
何故か、先輩がそこにいる気がして。
ゆっくり歩いていた足がいつのまにか早められて…気がつけば僕は走っていた。
勢いよく扉を開く。
…いた。
空を見上げていた。
僕は走って、先輩のもとへ…。
先輩は驚いた様子で、僕を見つめた。
唇が少し腫れている。
「鈴、お前…」
「先輩!」
僕は先輩を真っ直ぐに見つめた。
「先輩…僕、決めたんです。僕を好きになって貰わなくてもいい。
僕は…先輩を救いたい。苦しいなら傍にいて、先輩を支えたい。
友達だって構いません。好きだって気持ちは、変えられないけど…」
先輩の目が、見開かれて…信じられないことに潤んでいた。
僕の決意表明を聞いて、先輩はいきなり、笑いだした。
「鈴…お前って…」
笑って、笑って、声が続かない先輩を呆然と見つめている僕。
真っ赤になっているだろう…いま。
「あ、あの、なんか…もう僕…」
笑われるとは思ってなかったから、どうしていいかわからなくて。
真っ赤になってうつむいた僕は…気がつくと引き寄せられて、抱きしめられてた。