「先輩…あの…」
「鈴、お前って意外と読めないよ」
…それって誉めてるの?
でも、あんまし考えらんないや、あったかいから
「鈴、キスしてごめん。なんかさ、お前が屋上こなくなって…避けられてさ…自分でもよくわかんないんだけど、めちゃくちゃ痛かった」
…うん。
先輩は寂しがりやだもんね、と心で呟く。
「お前の気持ち、誤魔化したりしない。
今すぐ、他の奴に向かえるほど俺は器用じゃない…けど、失うのも痛い。…俺って卑怯だろ」
「うん」
先輩は笑って、あっさり言うなよ、と僕のおでこを指で弾いた。
「それでも、いいか?」
よくはないよ。
僕は本気で好きだから、本当は痛いよ。
先輩が好きだ。
だから、辛くても傍にいるから。
「それでも…いい」
「眼鏡、痛くないか?」
痛くない…。
僕は先輩の体温に包まれていた。
リイチ先輩、貴方の言っていた「誰か」に、僕はなれそうですか…?
大好きだよ、先輩。
好きで、好きで、仕方ないんだよ。
気が狂うほど、好きだよ
こうしていると欲張りになりそうで怖いよ。
好きになって欲しいって
思っちゃいけないのに。
泣いちゃだめだ。
僕は先輩を見上げて、微笑んだ。
精一杯、できることをするよ。
優しい先輩、優しすぎるから…誰をも傷つけまいとするから、自分が傷つくんだよ。
それから僕らは、
元通り。
屋上に上がって、放課後を過ごした。
先輩の好きな音楽を知った。
先輩の好きな食べ物や嫌いな食べ物を知った。
先輩の初恋も、知った。
両親が早くに事故で亡くなって叔母に育てられたことも知った…。
「だからさ、俺、すっごい資産家なの」
ふざけ半分で煙草の煙を吐き出す。
「俺が二十歳になったら遺産が全部手に入るんだってサ。叔母がそれでやっていけって。
二十歳になったら天涯孤独だと思ってやっていけってさ…気楽だよな」
先輩の悲しみも、知った
僕らは黙って背中合わせ
お互いの暖かさを感じながら、眠ることを知った
ねえ、先輩。
僕、誤算だったよ。
知ることは、先輩がどんどん僕の中に入ってくることだったんだね。
だから、痛いし
嬉しいし
恋は、愛に変わってしまうんだね。
求めないって言ったのに…僕は求めてる。
先輩、愛してる。