「あっ、モシモシ。奥さんですか?〇〇さんの奥さんに間違いありませんね?」
と男の声で慇懃に聞いて来ました。
「はい!〇〇は私の夫ですが…」
私は嫌な予感を感じて声を潜めて答えました。
「実はですね。ご主人が万引きをやりましてね」
「えっ、どちらで?お店は?」
「〇〇町のスーパー**** です。店長の〇〇と申します」
「ちょっと主人に代わって下さい」
私は美容師に気付かれないように、聞こえない場所に移動しました。
特殊なストレスから教師の万引きは日常茶飯事に起きていて、職業病のひとつとして関係先でも対策が進められていて私には驚くことではありませんでした。
「モシモシ、あなた?…話して!結論だけを!」
私は黙って聞きました。
「事実なのね?うん、判った!…並ねあなた!……30分で着きます!店長さんにそう伝えて!」
私は運転しながら考えました。(解雇されて、会社で働くしかない。まてよ!社員に、お客に、親に何と説明するか?本人のプライドは?店の信用は?・・・・)
クラブのママさん程、きらびやかでは無いが和服を着て、髪をアップに纏め、帯だけは高価な物を絞めて私はスーパーに車を停めました。
「あの、店長さんを」
私がレジの女性に言葉を掛けると、上から足元まで確かめると、慌てて店の奥に走りました。
「店長の〇〇です!どちら様でいらっしゃいますか?」店長は丁寧な言葉使いでした。
「この度は大変なご迷惑お掛けしました。先程、お電話頂きました〇〇の家内です」私も丁寧に頭を下げました。
店長はポカンと口を開けて暫く私を見て、慌てて
「奥に、どうぞ!」
と言います。
倉庫のような部屋でパイプ椅子に主人は座っていました。
「スマン!」と小さく主人は呟きました。
長机の上に画材が幾つか並べられていました。
「これを?主人が?…間違いないのね?」
どちらに言うともなく尋ねると二人とも頷きます