「やあやあ。それはご丁寧に!奥様もお疲れでしょうに」
と言って、お布施を拝んで受け取ったあと、
「済みませんね今日は、妻を京都に行かせて…その為、伊勢から応援を頼んだのです。まあどうぞ」言いながら畳の部屋に案内してくれました。
いつもは、女ながら法事は奥さんが袈裟を着けて住職の補佐をしてお経を上げて済ましていました
私が三回忌法要を頼んだ為に、京都の本山での会議に奥さんを行かせて、住職は三回忌を勤めてくれたのだといいます。
「ああ、ケンシンさん!ハンリョウ君も!…奥様が料理を届けてくれましたよ!こちらへ!」
隣の部屋に大きな声をかけました。
作務衣を着た二人のお坊さんが部屋に入って来ました。
「今日は、どうも。お世話になりました」
私が丁寧にお礼を言うと
「とんでもありません!務めですから。お気を使わんで下さい」
二人が同時に言います。
「大変でしたね奥様。でも三回忌を済ませれば、一先ず、奥様のお勤めは済ませたことになりますこれまでは大変でしたでしょうが…」
「いえいえ、まだ七回忌も十三回忌もあります。頑張らないと。…これからもお世話になります」
私が言うと、一人が、
「ご苦労様です。でも奥様、教えは、御仏は…」
と言ったところで住職が
「ほらほら、ケンシンさんは熱心なんだから…」
と遮るように言いました
「いや、でも住職。奥様はまだお若いから…苦は多いです。今、私たちが御仏の教えを説いて差し上げるべきです!」
と強い言葉で言います。
住職さんが、
「奥様、今日は?この後はまだ、忙しいのでしょお時間は?」と私に尋ねます。時間を見ると六時半を指していました。
「いえ。もう親戚も帰りましたし、こちらのご挨拶が済めば…後は何も…」私は答えました。
「じゃあ、よろしければ
ケンシンさんのお説教を聞いて帰りませんか?言われて見れば確かに奥様はまだお若い。この先何十年もの暮らし向きに役立つかも知れません。膝を崩して…楽に!お茶を入れましょう」
と言って席を立ちました
今、考えるとこの時、私も席を立って帰るべきだったのです。
奨められるまま横座りに腰を落ち着けたのでした