「住職!本堂をお借りしてよろしいですか?」
範良様は住職に尋ねていました。
「ああ、いいとも!…だが、話しを聞いていると…奥様と私は地元の寺と檀家の関係だ。懺悔のような檀家の話しは聞かない方がよかろう。朝の勤めもあるし、妻も居ない寝過ごしたら大変だ。もう休むから、ご自由に。火の用心だけ頼むよ…」
と住職さんが言います。
「奥様、行きましょう!ストレス、悩み何でも聞かせて下さい!解決出来るかどうか…話すだけでも、スッキリしますよ」
範良様は缶ビールを一気に空けて立ち上がりました。堅伸様も……。
「えっ、私は…なにも…」
ここは神聖なお寺であること、相手はお坊さんであること、等考えて正直いかがわしいことなど、想像だにして居ませんでした。が、秘密、ストレスを話すと言うことに抵抗があり、本堂に行くことには抵抗がありました
一度は拒否しました。
ビールの力もあって、義父母への愚痴だけでも誰かに話せばスッキリするか、とも考えて居ました
長い廊下を二回曲がって本堂の入り口に着きます
本堂は、幅、一間半の廊下が三方を囲んでいます アルミの雨戸が外を囲み内側は障子戸の二重になっています。
中央の仏壇には電飾の灯明が燈されていました。
範良様、堅伸様の二人はその前に正座して、何やらお経を唱えています。
私も訳が判らないまま、二人の後ろに正座していました。
本堂の隅には、お葬式の長いお経の際、ご住職が腰掛ける、折り畳み式の朱塗りの椅子が立て掛けられているのです。
人の背丈程あります。
お経を終えた二人は、それを仏壇の正面に組み立てて据えました。
…二人の内、どちらがあの椅子に座るのだろうか…範良さんだろうな…と私は思っていました。
「奥様、ではどうぞ!」
二人は椅子に向かって手の平を伸べるのです。
「えっ、私?…私が、それに?座るのですか?」
「〇〇宗では、こうしたいと考えています。椅子は多少、形は変わるでしょうが…」
範良様は、一段、階段を昇る椅子に、手を添えて座らせてくれました。
二人は椅子に向かって左右に正座しました。
「静かに目を閉じて…奥様の悩みストレスを、お聞かせ下さい」私は、小一時間、話しました。