「何をイラついてんだ」
俺が肩を掴むと、翔はようやく足を止めた。
毛を逆立てた猫みたいな顔で振り向く。
「…別に」
全然答えになってねえ。
俺がそのまま見つめるとようやく諦めたように、ため息をついた。
「ごめん…」
一気にシュンとしてしまう。
それどころか、色白の肌から血の気が引き、青ざめてさえみえた。
「お、おい、どした」
「…な…んでもない…」
ふらついたかと思うと、翔が俺の胸元に倒れこんできた。
力尽きたように、ぐったりと。
保健室。
俺は心配でいてもたってもいられないでベッドの横で待機していた…が、保険医は余裕な声でカーテン越しから「昼休み終わったらちゃんと教室戻るんだぞ」とか言っている。
知ったことか。
翔の顔は本当に蒼白だ。
普段から儚そうな華奢な身体が透けてしまいそうで…俺は不安になる。
「翔」
小さく呼ぶと、何度めかでパチリと目を開いた。
「…あれ?」
あれ、じゃね〜よ、もう
翔がむくりと起き上がる
「何、俺…ぶっ倒れた?…ちえ、またかよ」
「またって…」
翔は頭を振るとニヤリとした。
「俺、貧血持ちでさあ…興奮するとヤバい」
ヤバいなら興奮しないでくれよ…。
内心の心配が伝わったのか、心からすまなそうに目を伏せた。
「ごめん、ビックリしただろ」
「当たり前だっつの」
翔がじっと俺を見つめる
「ずっといてくれたの」
…可愛らしい口調で、見上げられて…俺は恥ずかしいくらい動揺した。
見慣れたとはいえ、…綺麗すぎる目が…近い(汗)
「そりゃな、心配だろ」
俺がぎこちない口調で言うが早いか、翔は細い腕を伸ばして…俺を引き寄せて、素早くキスをした
触れるか触れないかの、かすったようなキス。
唖然として、翔を見下ろすと…泣くような顔をしていた。
幼い子供のような。
俺たちはしばし見つめあい、動けずにいた…。