教授は言った。
「この文書に詳しく書いてあるが…つまり、一族の血筋が絶える恐れがあれば、一族の中で助け合って跡継ぎをもうけなさい。夜這いを互いに受け入れて子孫繁栄を計りなさい。という意味だな。但し、その一家で跡継ぎが産まれなかった以上、暗に夜ばいを認め、自分の跡継ぎとして立派に育てなさい、とも書いてある!……この文章は当時、五人の子供に父親が苗字も名付け商いも決めて書いて渡した物だろう。…時代を知る上で一級品の古文書だよ!」
「宵待、つまり夜這いについては、君が図書館で自分で調べなさい。」
と教授は言った。
私はそれを図書館で知って驚いた。
天平の昔から、平安、鎌倉、戦国江戸と、それぞれ時代を生き延びて来た一族に感動すら覚えた。
我が甲斐家は宇治、鹿児島、八女、静岡、台湾、セイロンなどから茶を仕入れ販売している。
仰木家は全国の焼き物を手広く、端元家は堺や新潟、ドイツなどの刃物、出刃はもちろんチェンソー、芝刈り機まで販売、音無家は京呉服や有名紬を売っているし、柿恭家では米が規制緩和されたあと関西一円にスーパーを数十店舗構えている。
我が家では私が大学を卒業して商社勤めをして二年後、父親が無くなり私が跡を継いで五年になる
従って、一族の長老は仰木の叔父貴である。
私はその古文書のことは忘れていたが、今年の正月の一族の集まりの中でふと思い出し、仰木の叔父貴に聞いてみた。
「叔父さん、こんな古文書見たことありますか?」私の問い掛けに叔父貴は
「おお、あるある、家にもある!意味は全く判らんが、昔から仏壇の引き出しに入っとる!喬君は書いてる意味が解るんかな?」と私に聞いた。
私は大学教授の解読文書をスラスラと読み上げてやった。
「そうか、そんな昔からな!先祖は偉かったんだな!頑張らなアカン!一族仲良くして頑張らなアカン!…そうか、夜這い、な?今は時代が違うからな!そうしてまで跡取りをな!先祖のしきたりやな…」
叔父貴は酒の席で子供達が居ないのを幸いに、
「それだと、差し当たって問題なのは音無家だな、真智子さん、跡取りどうするね?お家断絶はアカンぞ!夜這いでもかけて貰うか?…今なら喬君がちょうどいい!大学で頭も良かったし、スポーツも得意やし…」叔母を肴にする。
「ヨバイって何ですの」