「ヨバイって何ですの?」
音無の叔母が仰木の叔父貴に面と向かって尋ねた。叔父貴の方がたじろぐ!
叔母と言っても私は子供の頃から、お姉ちゃん、お姉ちゃんと慕って可愛がって貰ったものだ。
私より七ツ年上。私が29歳だから今36歳の筈だ。
音無家では一人娘で可愛がられ頭も良く大学を出て和服アカデミーを経て家業を継いだ。
「天はニブツを与えた!」と週刊誌に載ったこともある美人だ。
旦那さんを養子に迎え会社を切り盛りしている。
旦那さんは病気を患い入退院を繰り返して、あまり芳しくないとも聞く。
実質的には社長業務を叔母が勤めている。
まだ、跡取りに恵まれて居ないのだ。
「つまり…その…何だ!その…例えば一族である喬君の…そのー、胤を貰って…その真智子さんが…妊娠して…跡取りを…つまり、先祖のしきたりなら…その…」
叔父貴はしどろもどろだ
「何だ〜、もう、叔父さま!冗談はっかり!」
叔母は酒ばかりとは思えない顔を赤らめて言った
その場が白けてしまった。何だかその晩は叔母と顔を合わせるのが気まずい雰囲気だった。
そんなことがあって、正月も過ぎ三月の始め、夜中に私の携帯が鳴った
「モシモシ、わたし!喬ちゃん?」午前1時だ。
叔母からの電話だった。
「ああ、姉さん!どうした?こんな時間に!」
「うん。私、一人で飲んでる」と叔母は言った。
「えー。優雅だな!近ければ行くのにな。何かあった?珍しいじゃん!」
「声を聞きたかっただけ」叔母は元気がなかった。
たいした話しも無いのにその翌日も電話があった
「姉さん、何か話しがあるんじゃないの?話してよ!義兄さんなこと?」
私が思い切って聞くと、
「喬ちゃん、お正月のこと、覚えてる?」
叔母に聞かれて一瞬、何だったか思い出せない。
「私達、一族のこと」
「ああ、快仰端無恭のこと?…先祖は大陸から来たんだよね俺達」
私は古文書を思い出した
「うん。そう。…音無家は断絶するかもよ。主人の病気、お医者さまから言われちゃった!覚悟はしてたけどね。長くて二年。…だって!本人も知ってて。『ゴメン、ゴメン、子供作れなくて…両親にも申し訳ない。それだけが心残りだ』って…それで私、ヨイマチ?ヨバイ?の話、主人にしたの!そしたら主人が」