「一族の歴史?それを主人に話したの。そしたら主人は、『是非、喬ちゃんに電話する』って聞かないの!私、話さなければ良かったと後悔して…まさか主人から電話かかってないでしょうね」
「いえ、電話はかかりませんが…義兄さんは何と言ってるんですか?私に電話して、何の話しがあるんだろう?」
私が言うと叔母は
「だから……主人は死ぬ前に…音無家の跡継ぎを…見たいなんて言うのよ」
「まさか!?その、私と姉さんが?…それが義兄さんの話し?」
私は驚いて叔母に尋ねた
「その、『まさか』よ!…だから、電話があったら『考えて置きます』程度に答えて置いてね。もう長くないの、あの人」
叔母は辛そうに言った。
義兄からの電話は悲壮感に溢れたものだった。
余命幾許もない寿命の中で、無念さに溢れていた。音無家に婿養子に入り跡継ぎを残せなかった。
「喬ちゃん、真智子から聞いたよ!一族の歴史を!自分が生きて居る内に真智子との間に子供を作ってくれないか!自分が生きている内なら世間は私の子供と思うだろう!叔父さん達も認めてくれるだろう!喬ちゃんならいいよ!子供の顔を見たら安心して死ねるよ!私に出来るのはそれくらいだ」義兄はそう言った。
義兄の命は長くない!
叔母が再婚すればまだ子供には恵まれる!
音無家が断絶することはない!
義兄を騙すようなことになるが…叔母のいうように、ここは「考えて置きます」と言う以外に無かった
ところが義兄は私に話しただけでは収まらなかった! 一族の長老、仰木の叔父貴から電話があったのだ!叔父貴は
「電話で済む話しではない!真智子も呼ぶから、お前も出てこい!三人で話そう!」と言うのだった。
「真智ちゃん、来年は37歳だろ?清孝君がもし亡くなれば、三年は喪に服さにゃならん!そうすると、あんた40歳だ!それから再婚して子供を産むか?…無理だ!一族の先祖の書き付けもある!幸いにして、叔父、叔母と呼び合っているが、血の繋がりはない!従姉弟でもない!せいぜい、天平の昔の血縁だけだ!清孝君から電話を貰ったよ!先祖の教えを継承しようじゃないか!」
叔父は一気に理詰めで押して来たのだった。
「音無家は、私の代で絶えても仕方ないとも思うこともあります。でも…