律子の家に着いた。
少し洒落た細工の施してある格子が玄関を遮っていた。
家の前に降り立った時、律子はあっ、と声を漏らした。
倉真は初めていつもと少し変わった表情をした彼女を見た。
どこかで似たような顔を見たことがある奇妙な感覚に捕らわれた。
普段暗い感じだった律子が、驚いて瞳を少し大きく見せただけでこうまで印象が違うのかと倉真は思った。
「どうしたの?」
「………あ、いえ。なんでも…ありません。…送っていただき、ありがとうございました。」
倉真は律子を見た。
律子はいつも通りのすました顔をしていた。
律子はお辞儀をし、倉真は動き出す車から彼女を見ていた。
顔を上げた彼女の表情は雪でよく見えなかったが、どうやら手で口を覆っていた。
(今、泣いてた?)
「新島……?」
見ていなかった美月が事も無げに話し出した。
「やー、あのコやっぱり頭良いんだね。バレちゃうかと思ってドキドキしちゃった。」
「あっ…ああ、さっきは混乱しちゃって。ナイスフォローでした、先生。」
車内は一転、陽気になり、そのまま車は美月の家へ向かった。