「ええ、暇なものですから…ちょっと…」
「うわ〜、幸せなご主人ですね!こんな素敵な奥様がいらして…世の中、不公平だ」
「ぉーほほ!お上手ですね…そんなんじゃないけど今度、一緒にと思って」
「そっか〜、今日はお一人なんですね…」
「そうなの。あなたはどんな洋服をお探し?」
「いえ、私は洋服じゃないんです。奥様のような美人を探しています」
「それは残念でしたね。正面からみたら美人じゃなくて…おばさんで…」
「とんでもない!お綺麗な方で、私の狙いにビッタリですよ」
「それで?何のために?」
「いいですかね?申し上げて。失礼かなあ。でも私の気持ちが…放っておかなくて。奥様、下着の写真を撮らせて頂けませんか?雑誌の締め切りが迫ってまして…なのに美人が見つからずに困っています。私、こういう者です。お願いします」
私は近づいて話し、偽名刺を渡した。
「え〜、私、お見せするような物は、身につけていませんわ、美人でもないし若い娘を探したら?」
女は名刺を一瞥して、私に突き返した。
「お願いできませんか、私にクビになっちゃいます、お願いします。タダでとは言いません」
ここまで言って脈がなければ女は去って行く筈だ。微妙な分岐点(経験則)
「クビになるって…私の責任?…それが」
女は私の方を向かずに洋服を物色する振りをして言った。(掛かった)
「いえ、ただ、奥様のスタイルが…目立つもので…勿体なくて。命の恩人になって欲しくて…」
「大袈裟な方ね。恩人だなんて。…下着だけの写真?顔は写さないんでしょ?何処で?」
「もちろん顔は写しません。後で奥様に全部、チェックして頂きます。近くのスタジオです、私の車ですけどね」
私は財布から一万円札を取り出して、差し出す。
「これ、少ないですが、交通費として…」
「助ける人からお金は頂けないわ。近いんでしょ?お車の場所は…」
「はい、歩いて四分…」
「おほほほ、あなたって楽しい方ね、五分じゃ悪いの?…あなたお一人ね?行きましょ!10m程、後ろ、ついて行きます」
「9m後ろにして貰えませんか」
「ふふふ…10mじゃなくて、9mね?判りました」