私は興奮していた。
私のリストラを決めた人事部の明石部長。
彼に対するリベンジとして妻の霞を凌辱することを決めたのだが…その霞が私の目の前で万引きをするとは…。
ごろごろとキャスター鞄が音を立てるのも構わず霞に追いついた。
斜めに傾いた眼鏡を正し霞の腕を掴んで言った
「奥さん!事務所に行きましょうか…」
「何をなさるの!」
「ですから、ここでは目立つでしょ、事務所で話しましょ!顔見知りでも居たらまずいでしょ。」
「私が何をしました?」
「奥さん、私、この店の警備の関係者でして、確かに警察官ではありません。このような件は無条件で即刻、110番することが義務付けられて居ます。
私が電話一本入れればサイレンを鳴らしてパトカーが来ます!警察署で奥さんが正しければそれでいいし、じゃなければ万引きは立派な犯罪です。電話する前に話そうというのに、恨まれるのも心外ですから…奥さんの言われるように私共に間違いがあれば大変ですから、保護者として旦那様にも来て貰います。旦那様に連絡して下さい」
「しゅ、主人は今、会社です…」
「会社って奥さん、自分の妻が犯罪者にされるか冤罪を着せられるか、と言う状況で、会社どころじゃないでしょう。私が話してあげます、何番ですか?電話番号は」
「それは、ちょっと…」
「警察に電話しますよ、10分以上の遅れは罰金取られますから…事務所で無くても、奥さん、ここならって所でもあるんですか?ご自宅は近く?」
「家には子供が。…喫茶店はダメですか?」
「子供さんが居るの?男、女?お幾つ?…喫茶店たってお客様も店員も居るでしょ」
「中学生の男の子です。どこか静かな喫茶店でも」
「静かな喫茶店こそ、最悪でしょうが、店中に話が聞こえますよ。…そうか、中学生で男か…一番難しい年よね…困ったな」
「子供は中学生と言っても…今、登校拒否で…」
霞は汗を拭く振りをしながら涙を拭いた…
「登校拒否って奥さん…前にも万引きしてない?今日が初犯?」
「いえ、そんな!前にもなんてしてません」
「奥さん、ここで泣いたら目立ちます。…そうか、今日が初めてだったの?前にもやって登校拒否になったんじゃないの、子供さん!」
「嘘じゃないです!今日が…初めてです。登校拒否とは関係ないです!」
霞は万引きを認めた。
私の脇を汗が流れた…