「メール、着信しましたね…それでは私はこれで」
霞の返事も聞かずに…
踵を返して駅に向かう。
自分がカッコいいと思う
考えた。
形の上だけでも、平和な家庭を持ち、会社でも職制として肩で風を切り、他人ならともかく、この私のリストラを決め、直接、通告して来た人事部の井上係長、本橋課長、明石部長に対するリベンジ…私個人が三人に対する『私刑』つまり、リンチ。
表面的に平和な家庭に突然、衝撃を与えるのだ。
他人は知らない本人だけにピンポイントでの衝撃
全裸の妻が他の男に抱かれた写真が手元に届くのだ!しかも、レイプなどではなく、その写真に写る妻の顔には歓喜に打ち奮え、恍惚の表情を浮かべて男にしがみつく写真がベストだ。
その写真を見た夫は他人に見せ回ったりするか?しないだろう!
妻はなじられるわな。
子供にも見せて話すか?
妻の実家に怒鳴り込む?
親友に見せ、相談する?
妻はともかく、一人悶々と悩むのは明白だ!私の脳を快感が駆け抜ける!
これが私が描いたリベンジのシナリオだ。
しかし、妻が万引きを犯し、社会的制裁を受けた後の明石部長一家に私のシナリオは通用しない
五十歩百歩、もはや何の衝撃も与えないだろう。
ましてや、万引き女、霞を抱く等という気は全く起きない。ペニスが勃起もしはしない。
何か先を越された感じで面白くない。
明石部長へのリベンジは諦めるか…
井上係長、本橋課長へのリベンジだけで満足するしかない!部長の上は専務か、しっかし…60才前の職制の妻はこのシナリオの対象じゃない。作品に迫力を欠いてしまう。
そのことを再検討するため、霞には三日間の猶予を貰った。
電車の中で携帯を開く。
メールが四通、着信していた本橋課長の妻京子から 2
井上係長の妻涼子 1
明石部長の妻 霞 1
涼子のメールを開封する。
?「霞さんへ
嬉しいことがあってメールしました。娘を保育園バスまで迎えに行ったのですが、バスを待つ間、いつもそこで会う友達が『ちょっとォ、涼子さん、何か、生き生きしてるじゃん』、娘がバスから降りて開口一番、『ママ、今日、綺麗』と言ってくれ、嬉しくて花を買いたくなり、寄った花屋さんの人が『あれ?一段と綺麗になりましたね』って。
誰にも言えなくて霞さんにメールしました。アロママッサージやおトイレのこと、4時間でもっと女にして下さいね。再来週が待ち遠しくて。あの下着、まだ穿いてます??」