野端富継は目覚めた。いつもと違う目覚めだった。 熟睡した心地好さ― 何年、いや思い出す事も儘ならない程の年月もの間、忘れていた満足感だった。 (ベッドで寝とる??) 浮浪者の富継は、硬いコンクリートの床を段ボールのクッションで補っただけの床で二十数年を過ごしていた。 富継の年齢は定かでない。80歳を過ぎている事は確かだが、当の本人でさえ正確な歳を憶えていなかった。 (ここは・・・ どこや?)富継は上体を起こした。先ずはハート模様の乙女チックな布団カバーに違和感を感じた。部屋全体が若い女性の趣味だったが、それよも頬を撫でたサラサラの髪に気を移した。 いつものパサパサで汚い髪とは明らかに違っている。ふいに富継は、掛け布団を剥ぎ取った。 赤いチェックのミニスカート姿だった。80歳を過ぎた老人には似つかわしくない姿であろう事は想像するまでもないが、スラリと白く伸びた美脚がその予測を裏切った。
胸元のふくらみにも気づいた。オッパイと思われる物の大きさのせいだろうか、いつもの自分とは明らかに違う、と本人は感じていた。 部屋の横壁の半分近くはミラーになっていた。その大きさに何かの意図が感じられたが、考える事もなく富継は鏡の前に立った。
そこには大人に成りかけのまだあどけなさを残した女性の最高級の美が、呆然とした様子であった。
「・・・これ、誰や?」 呟きながら富継は鏡に顔を近づけた。 微かに薄化粧をしている。地肌が透き通る様な雪の白さの為、口紅以外の化粧は実際必要がない感じだ。 また瞳の魅力が際立っていた。可愛さと優しさ、そして知性をも同居させたその造りは、世の100パーセントの男達を虜にする力を秘めていた。 (えーと・・・ おれぁ、野端富継・・・ じゃなかったけかなぁ・・・ ???????) 色んな思いが富継の頭のなかを駆け巡った。 (男だったぞ、確か! しかもジジイだ。間違いねぇ。・・・ しかし、こりゃどう見ても若いオナゴだぁ。しかもかなりの別嬪じゃねえか、信じられねぇ)
それから富継は胸のふくらみが気になり出した。