俺の名前は小倉 理…ｵｸﾞﾗ､ｻﾄﾙ…あだ名というか呼び名は氏名の漢字をモジッて『オグリ』。
Ｔ大医学部法学部二回生である。
学費はアルバイトで稼いでいる。
実家は貧しい。女手一つで母親が学費を送ってくれる。心配するから受けとっているが、俺の通帳にはバイトで稼いだ５千万近くの残高がある。
ﾊﾞｲﾄの職種は公には言えない闇家業だ。…がここだけの話…
世の中で何らかの理由で、欲しいにも拘わらず｢子供･跡継ぎ｣に恵まれない夫婦･女性を妊娠させる、いわゆる｢種馬｣である。…｢胤馬｣と書くべきか。
但し、言っておくが、冷凍精子を提供するのではなく、実際に対象女性とセックスをして妊娠させるのだ。
彼、彼女たちは、ﾆｰｽﾞに合った所謂、国公立大学生達の｢優秀な精子｣を求める訳で、そこに需要と供給関係が発生する。
種馬達は北海道から鹿児島まで国公立大学の学生の中から選ばれるらしい
｢らしい｣と言うのは理由がある。
判らないからだ。
知っているのは事務局長だけである。
｢事務局長｣と呼ばれるが上にはだれも居ないこの闇家業の唯一の最高責任者だ。
事務局長は三回生が勤める。法学部出身が多い。
現在の事務局長は、当Ｔ大法学部三回生、松本 猛(ﾏﾂﾓﾄ･ﾀｹｼ)
何故、事務局長を法学部の学生がつとめるのか、理由は簡単である。
人間を妊娠させる上で発生する法的諸問題を解決しなければならないからだ。いわゆる、事務局長には法律知識が求められるからだ。
事務局長の資格は｢三回生であること｣だけだから三回生で留年する人が通例である。
何故か？
利権が絡むからだ。
事務局長の収入は年間、億を越える。これまでの事務局長の最高所得記録は４億５千万を越したとも言われている。
種付け料は千万円を越すこともあるらしい。
現松本事務局長の人脈はＴ大ＯＢで、弁護士会、医師会、霞ヶ関、経済界、芸能界…全てに及んでいる。
で、もちろん、種馬同士に面識はなく、交流もない。誰が種馬なのかは誰も知らされない。
種馬の連絡方法など含め種馬としての個人情報は事務局長のPCだけに保管される。
種馬のアイテムとして連絡用の携帯電話を保持することが義務付けられる
接触は事務局長と種馬だけで、極秘に行われる。
私は松本事務局を単に｢あッ、局長｣と呼び、彼は私を｢ｵｸﾞﾘｷｬｯﾌﾟ｣と呼ぶ。
バイト専用の俺の携帯が鳴った！
｢ｵｸﾞﾘｷｬｯﾌﾟか｣｢あｯ局長｣
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