「オグリキャップか」「あッ局長」
「いつもの通りだ、メモに取るな。頭に叩き込め!明日 ニイ・サン・マル・マル…赤坂・ニューグランドホテルのラウンジ…男・赤いネクタイで英字新聞…女・百合のブローチのカップル…」
俺は局長の言葉を反復して確認した。
「OK!まだアルツハイマーの恐れはないようだ。書類はいつもの一式に委任状を余分に一枚。写真を見たがお前に勿体ない美人だ。質問は?オグリキャップ君…あれば手短に」
「あッ局長、赤いネクタイはダンヒルでいいですか?」
「馬鹿野郎!シャネルだろうが!いまどき!…それでは名馬オグリキャップ君、君の優秀な精子をぶち込んでやれ!わざと失敗して何度もセックスをすることのないように!…成功を祈る」
携帯がプツンと切れて無機質な電子音が響く。
概ね、お客は跡取りを望む会社社長、弁護士、医師、宗教法人代表、などが多い。
特殊な場合、有名女優であったりする。
翌日、22:45…
約束の場所に正装で出掛けた。15分前だ。
カップルは先に来ていた。
知らん顔で相手の傍の席でコーヒーをオーダーした。
5分前。
振り向いて挨拶する…
「〇〇様ご夫妻でいらっしゃいますね…小倉 理です本日はありがとうございます」
「これはこれは!〇〇です小倉君、ご苦労様です」
二人が立ち上がり頭を下げ、着席した。
「事前に松本君から君の略歴を送って貰った。私は気に入ってる!惠子が…ああ、妻の名前だが…惠子がお会いしてからと言うもんでね。…どうかね惠子。小倉君は?」
と、隣の妻、惠子に問い掛ける。
「はい、私も…」
と言って惠子は顔赤らめ飲みかけのレモンスカッシュのストローに口をつけた。
「ありがとうございます。この仕事のポイントでして…私も安心しました」
と俺は言った。
「うんうん、それで…話しは判ったから。私と君の血液型も合ってるし、で、どことどこに印鑑を突けばいいのかな?書類の」
俺は予め鉛筆で印しをつけた箇所に記名押印をさせた。
「これで全部だね?では後の話しは車の中で…どこでも話せる話しじゃないし…駐車場に停めてあるんだが。」
そう男が言うと惠子が伝票を持ち、立ち上がった
「はい。判りました」
と言って私が振り返り自分の席に伝票を探したが見つからなかった。
駐車場の壁際のトヨタの最高級車に案内された。
「惠子の車だ。すまんが小倉君、君、運転席に座ってくれんか。惠子は後ろに。私が助手席に座らせて頂こう、ここが私の指定席で…落ち着く」
と男が言った。