ホテルの部屋に入った途端、彼はランドセルの中から急いで吸入薬を取り出して…事無きを得たわ。
「よ、良かった…。対処法は知ってたのね。」
「当たり前だよ。小さい頃からだもん。あ、先生ごめん…ホテルに来ちゃって。こんなとこに来たら怪しまれちゃうか。」
冗談だったのかもしれないけれど、私は不覚にも少し緊張していたの。大人をからかうなって言ってはみたけれど、二人とも、子供だった。
「俺、みんなと遊びたいけど…すぐこうなっちまうし。」
「今日はどうしてあんなところで倒れてたの?」
ベッドに腰掛けていたキミトくんは突然、私の手を掴んで、私の耳元に顔を近づけてきたの。
私はそれに抵抗すること無く、彼から発せられた声を聞き取った。
「…先生を、待ってた…。」
私は身動きがとれなくなった。
私もキミトくんも雨に濡れていたから寒さで震えていたのだけれど、あの瞬間、二人とも体の震えが止まった気がした。
私は彼に引っ張られるがままベッドに倒れ込んだ。
あの後、情け無い事に私も微熱を出すのだけれど、そのせいなのか私の気持ちは高ぶって、おかしくなっていたと思う。