俺は二人に告げなければならない事項は他に無かったかを目を閉じてチェックした。
法学部三回生、松本局長の作成した「契約書」は全てを網羅している。
彼が裁判官になろうと検察官、弁護士、官僚になろうと法的に相手に論破されることはないだろう。
何代にも亘り引き継がれた事務局長の「引継書類」で問題点、欠陥部分が都度、改善され完璧な内容となっている。
しかも、数十ページに及ぶ契約書の中に「金額」を表示する数字は一箇所も出て来ない。
それでいて、相手に金額を認識させている。
商法、税法上からも指摘される糸口はない。……
「結局、小倉君は高校まで野球をやってたんだな…甲子園には出たの?」
と社長が言う。
「はい。予選の決勝戦で敗退しまして、甲子園には行けませんでした」
「そうか。野球の上手い子が欲しいもんだ。なあ惠子。小倉君、そういうのを惠子のオマンコの中に頼むよ…」
「…あなた…」と惠子。
「野球はどうか判りませんが…自分の体力だけは自信があります。精力と申しますか。ですので、そういうことについて奥様と打ち合わせさせて頂きます。あッ、奥様、携帯番を教えて頂けますか」
「はい、書くもの、お持ちですか?」
「いえ、お客様の個人情報をメモすることは禁じられております。おっしゃって下さい記憶します」
「失礼しました。09064*85**8 です。私のプライベート携帯です」
「09064*85**8…了解しました。お名前は惠子様、で宜しいですね」
「着きました。…あなた、小倉さんをお送りして来ます。確かJR側に売店がある筈。ジュースでも買います。…それに終電、間に合えばいいけど…」
そう言うと惠子は車を停め、私より先に小走りに駅に駆けた。
電車までに 15分程の時間があった。
「ちょっとここでお待ち下さいね…」
この時間に開いている売店があるのか惠子は 5分も経たずにビニール袋を下げて戻って来た。
中に缶コーヒーと週間ベースボールが入っていた。
「あ〜、間に合いました。今夜はお世話になりました。遅くまで。…それに…ごめんなさいね、主人。あんな下品なお話して、私、汗をかきました」
「あッ、有難うございます遠慮なく。…奥様、汗はベッドでかくものです」
「はい、あッ、いえ!…あの…明日、いえもう今日ですが…9時に連絡頂けませんか。あの、私の番号…」
私は大きな声で、
「09064*85**8!…惠子」
と言って階段を駆けた。惠子の笑顔、良かった。