私はこの●●川が好きだった。
多摩川などと違い、夏場には目を凝らせば鮎や川魚の姿が見えることもあった。
四国の四万十川ほどとは言わないが「清流」だ。
この土手がタローの散歩コースだ。
ある時、この土手を散歩していると眼下の河川敷のベンチから、犬を呼ぶ口笛が聞こえた。
タローは立ち止まりジッと男を見ていた。
口笛が数度鳴る内、タローは激しく尾っぽを振り始めた。タローは突然いつものコースを外れて男に向かって土手を駆け降りた。ロープを引きずりながら…
私も土手を下りた。
タローは男の前に正座していた。
「ああ、これは。すみません。犬好きなもので、つい良い犬を見かけて声を掛けてしまいました」
とその男が言った。
「とんでもありません。雑種ですよ」
私が言うと男は、
「雑種じゃないでしょう…なあ、お前!名前は?」
男は私とタローの両方に言う
「タローと言います。雑種じゃないんですか、私、詳しくないんです」
「タローか、お前の名前は。そうか。…奥さん、あ、奥さんでいいのかな……雑種とは他の種類との混血のことです。どう見てもタローは柴犬の純血ですよ…昨日も散歩されてましたね」
「ええ、…毎日…」
「いえね、散歩するタローの姿が良くないです。犬はですね、主人より前を歩かせてはいけないんです…前を行かせるとしてもロープはたるませて歩かせないと。シツケです。だれが主人か教えなければなりません。」
「そうなんですか」
「奥さん、失礼ですがご家族な何人です?」
「主人と二人ですけど」
「ああ。タローは、犬は家族の中で、自分のランクづけを自分でしてしまうんです、タローは多分、旦那様が主人で自分が二番目で奥さんは三番目で自分より下に奥さんを見てるんです
「いいですか、奥さん見てて下さい。」
男は傍のリュックのポッケットから煮干しイリコの袋を取り出すと立ち上がってロープを掴んだ。
そしてタローに煮干しを一匹与えた。タローが咀嚼してゴクンと飲み込むのを待って5、6メートル前に進む。
タローもついて進んで正座した。また煮干しを一匹。
男は私の前で 30〜40分訳の解らない行動をタローと繰り返した…タローに向かって話し掛けるのを止めず…
やがて、
「奥さん、タローは頭のいい犬ですよ。奥さんとはいきませんが、私を自分より上と認めましたよ」
男はタローを自在に操ってみせた。
タローはロープをたるませて男の前を距離を保って歩く
「スゴイ…ですね」
私は思わず拍手していた