「まあ!四郎さん、ものになんて…。味はものになってるか判りませんよ…まだ辛いのが良ければこれ、掛けて!…私はこれが限界!…じゃ頂きましょ。乾杯して!」
二人でビールのプルを抜いた
「うん、美味い!みどりさん、美味い!…ビールまで貰って……あッそうだ。ちょっと待っててね…」
ひとくち食べて四郎はテントの中に引っ込んだ。
「これ、お手製だけど…カレーのお礼!」
真っ青の色をした石を古墳から出土した勾玉の形に磨きあげてあった。四郎はポケットから糸巻きに巻いた木綿糸を取り出し先端を舐めて尖らし勾玉の細い穴に通した。
適当な長さに切って私の背中に回った。私の胸の前にぶら下げて長さを確かめ首の後ろで結んでくれた。
「へえ〜、お手製?…綺麗な色ね…ありがとう!石?これ…」
私が聞くと
「似合うよ色が。石です。何だと思う?帰って調べてみるけど…俺も初!孔雀石だと思う。原石をここの河原で採取した」
「えッ、ここで?…で、四郎さんが磨いたの?」
私が驚いて尋ねると四郎はカレーを頬ばりながら
「この河原にあるんだ…」
と言った。
「これが俺の今の仕事。テーマかな…人工衛星で診るんだけど、天草、豊後水道、四国、紀伊半島…この川から東北まで鉱脈があるんだ…日本列島は石の宝庫なんだ…」
四郎はビールを飲み、豪快にカレーを頬ばる。
気持ちのいい食欲だ。
「ありがとう!大事にします!嬉しい!世界に一つね…私の石!」
私もカレーを食べた。
じんわりと汗が出てくる
四郎は黙々と食べる。
「お代わりして。ご飯まだあるから…」
「うん、…遠慮しない!…でも…ヒェラルキーの違うみどりさんと食事すると…緊張するよ……」
「何よ、四郎さん、突然!ヒェラルキーが違うだなんて!おかしい!同じ大学の同期よ!どこが階層が違うというの?変よ…」
「うん、大袈裟だったけど…とにかく片岡みどりは雲上人!アイドル!マドンナだから…」
「ありがとう、四郎さん…でも、もうやめて!…そんなに距離があるなら、同級生だし、四郎くんって呼ぶわ…はい、お代わり、お代わり!四郎君」
私が手を差し出すと空のお皿をくれてTシャツの前で顔の汗をぬぐった。
もう、汗でぐっしょりだ
私もTシャツの胸がVの字に濡れていた。
「でも、思い切り汗かくって何年振りかな、気持ちがいいね。四郎君もいい汗かいてる…」
「だろ〜!これがいいんだ!汗を抑えるより、よっぽど健康的だよ!みどりさんも、テニスの時みたいに汗出した方がいいよ」