昭夫の冗談話であり、私もふざけて話にお付き合いしたのを思い出す。
『へえー、じゃ、その夜は裏木戸も勝手口も鍵をかけずに、お茶菓子やお酒も準備しとかなきゃ!可愛がってくれるなら』
『ばか、勝手口は鍵かけてな!鍵は表札の裏に留めておけ!酒よりもビールが好きな男じゃ。…』
『昭さん!もう止めて!縁起でもない!私、昭さん以外に体は開かない』
一日たりともセックスなしには過ごせない体になっていた私は昭夫に覆いかぶさって行ったのだ。
『その男は顔も見せず、どこの誰かも名乗らず…菊を満足させたら帰って行くからな。電気をつけたらあかんぞ。暗いなかでボボするんじゃ!そいつと俺は男と男の契りを結んでる』とも言った。
その地方では女性の性器のことをボボと言い、セックス行為全体を『ボボする』とも言った。
主人が亡くなってある日こっそりと表札を外して見た。
裏にも苗字が彫ってあって裏返して架けても表札の役目を果たすようになっている。
私は義父母が二泊三日の定期的に三朝温泉に湯治に行く日、表札を裏返してみた。
鍵はガムでしっかりと留めて…裏木戸は施錠せず
昭夫の言葉は信じてなかったが…
義父母とは別棟になっている建屋で私は霊前で昭夫と会話しながら、一人でビールを飲んだ。
『…表札、裏返したから!ほんとなのね?…私…他の男に抱かれてやる!
昭さんが悪いのよ。私を一人にして…』
ひとり、ブツブツ言いながらビールを空けた。
私はビールで酔い潰れる格好で床に着いたのだった。
昭夫はベットは嫌がり畳みに布団を敷いて寝るのを好んでいた。
私はふと人の気配を感じて目を覚ました。
枕元の目覚ましを見ると 夜中の12時半過ぎだ!
目を凝らすと入り口に人が立っていた。
『奥さん!夜ばいに来ましたよ。…昭さんとの約束でね!強盗じゃないから。嫌なら黙って帰ります。夜ばいの決まりですから騒がないで下さい』
『さ、騒いだり、しません。表札をしたのは私ですし、鍵も…でも、私…信じてなくて…驚いて』
『最初は誰でもですよ。私の顔、見えますか?』
『いえ、ここからははっきりとは見えません。でも、近づけば…』
私は浴衣の前をキチンと合わせ枕を胸に抱いて。
『そうですか?じゃあ私、お面をかぶります。ひょっとこの面です。どこの誰かはバラさないのが夜ばいのルールですけん…ボボしたら、朝までには帰りますけんね』